《即興小説》魅惑の村
お題:官能的な小説家
必須要素:BMW
制限時間:30分
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新車のBMWで慣らしドライブを楽しんでいた。
原稿の締切から逃げるように、高速を走らせる。
そして知らない地名の出口に吸い込まれるように、高速を降りた。
両側に花畑が広がる田舎道を走る。
その先に山があった。
道は山に続いていた。
そのまま走る。
あたりが森になり、道はくねくねと登り坂になった。
鬱蒼と茂る木々のせいで、山道は夕暮れのように薄暗かった。
ライトを点けると、その先に女が見えた。
女は裸だった。
こっちの車に気づいた女が、あっち側に走っていく。
自然と裸の女を追うかたちになった。
道は薄暗いまま、曲がりくねり続けていた。
ライトが円状の道を薄い闇に照らしだし、そこから女が消えた。
どこか横に逸れる道があるのだろうか。
気をつけて横を見ながらゆっくりと走ると、丸太に板を打ちつけただけの簡素な門が見えた。
「***村」
どうやら村の入り口らしい。
板に名前が書いてあった。
しかし肝心の村の名前は、ペンキが雨で流されていた。
その丸太と板で作られた門の向こうに、土がむき出しになった細い道が見える。
そこ以外、女が消えたところは考えられなかった。
門から向こうは、とても車では入れない。
ぴかぴかの新車を山道で乗り捨てる。
そこからは歩いて、ナントカ村に通じる道を歩き出した。
森の中に細い土の道が続く。
やがて、ぽつぽつと民家が見えてきた。
どれも同じような、板で作られた山小屋風の家だった。
それらの家にはどれも表札が出ていた。
「増田」
「増田」
「増田」
どの家も、増田姓だった。
このあたりは、増田という一族が多いのだろうか。
その時、道の先に、さっきの女が見えた。
女はまだ裸のままだった。
数々の増田家は、人の気配はしなかった。
それなのに、そこを通抜ける時、視線を感じる。
ぽつぽつと点在する増田の家々を見ながら、女を追う。
どの家も窓には灯りはなく、中は真っ暗だ。
それなのに、その奥からこっちを見られているような気がする。
女の笑い声が聞こえた。
そっちに目を向けると、全裸の女はこっちをなまめかしく見ていた。
髪の長い女だ。
裸の背中を腰の近くまで黒髪が隠している。
増田の家々のことは忘れ、女を本気で追い出した。
村の奥で、家が燃えていた。
驚いて足をとめる。
家はぼーぼーと炎上していた。
そのゆらめく炎のまわりに、何人もの人影が見えた。
村人だろうか。
女の笑い声がまたした。
そちらを見る。
いつのまに、あたりは暗くなっていて夜が訪れていた。
足元に松明にする丁度いい木の枝が転がっていた。
それを拾い、燃えている家の炎を枝にうつす。
炎上に便乗して松明をつくると、女を追い続けた。
「こっち、よ」
女は一軒の家に入って、そこから顔だけだして呼んできた。
ふらふらと惹かれるように歩いていく。
女には飢えていた。
売れない小説家は、モテた試しがない。
だが、一冊だけ本がヒットした。
釣りをテーマにしたミステリだ。
その印税でBMWの頭金を払って、ローンを組んで新車を買った。
あとはほしいのは女だ。
女の家に入っていく。
そこで女のからだを抱く。
背中にファスナーがあった。
服を着てなかったはずなのに。
それをおろす。
すると、中からおっさんが出てきた。
「ようこそ、はてな村へ」
なんてこった。
釣られた。
くそ。
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=240368
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必須要素「BMW」で見つけた、ほかの人のおもしろかった作品。
そんな"BMW"もあったとは!(^o^)