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未解決の文字

もひとつブログです

《即興小説》映画をみる人

小説

お題:激しい食事
必須要素:映画
制限時間:30分

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彼女は来なかった。
どうやらデートをドタキャンされたらしい。

僕はポケットから2枚のチケットを取り出した。
空を見上げてため息をつくと、そんな僕を見ている女の子に気づいた。

「よかったらこれから……映画、見に行かない?」

ヤケクソで僕は誘ってみた。
普段の僕に、こんな勇気なんてない。
でも、ここで断られて、このクソったれな気分をもっとクソったれにしたかったのさ。

それなのに、その女の子は、「いいわ」と言ってきた。

十五分後。
僕と名前も知らない女の子は、映画館のカップルシートに座っていた。

「何か食べる?ポップコーンでも」
「飲み物だけ、ほしいな」

僕はコーラをふたつ買った。
本当は映画を観ながらポップコーンを食べるのが好きだったんだけど。

映画が始まる。
最初はだらだらCMばっか流れる。
僕は横目で隣の女の子を見る。

彼女は、スクリーンを見ていなかった。
自分のバッグをごそごそあさって、なにか取り出していた。
白い小さいものを指につまんで、口に放り込む。
それからコーラを飲んだ。

なにか薬を飲んだらしかった。
彼女はなにか持病があるんだろうか。

それを聞けないまま、映画が始まった。

最初は映画館のシーンだった。
スクリーンのあっちも映画館で、そこに主人公らしい男がシートを探してる。
何人かすでに座ってるシートの間に空いてる座席を見つけ、そこに尻を沈める。
手にはポップコーンのバケツ。
座るなり、その男はポリポリと白い粒を頬張っていった。

僕もポップコーンを食べたくなってきた。
やっぱり買えばよかった。
隣の女の子を、チラっと見る。
彼女は、またコーラのストローに口をつけていた。

スクリーンの中では、映画館のシートに座った男が、うまそうにポップコーンを食べ続けていた。
ぐう、と腹の音が鳴った。
僕か?

恥ずかしくなって、慌ててまた隣の女の子を見た。
彼女は、ちろりとピンク色の舌を出して、形のいい唇を舐めていた。
唾液で濡れた彼女の唇は艶めかしかった。

僕はあとで彼女を誘えるだろうか。
映画館を出て。
その……ホテルに、さ。

映画の中でも、映画が始まった。
シートに座る男の顔に、スクリーンの明るさが反射してる。
ポップコーンを食べてる男の唇が、嫌らしく歪んだ。
あっちでは、なにかえっちな映画でもやっているんだろうか。

これはドタキャンした僕の彼女が見たがった映画。
確か、普通の女の子が主人公の恋愛映画だったはず。
僕は内容なんて特に気にしないで、前売り券を買った。

僕の目的は、その映画を見たかったことじゃない。
彼女とデートする、っていうのが目的だったからね。

そのあとのことも、勿論僕は想像した。
映画館を出たら、どこか雰囲気のいいレストランに誘って食事をして。
その時にふたりでワインでも飲んで。
彼女をちょっぴり酔わせる。
アルコールで、彼女の心を少しだけ緩ませてさ。
それからホテルに誘おうかって、僕は考えていた。

その彼女にドタキャンされた僕は、代わりにナンパした女の子とそうなることを想像した。

映画なんて頭に入らなくなった。
スクリーンの中で男がうまそうに食べてるポップコーンも気にならなくなった。
僕は隣にいる女の子をどうやったら食べちまえるかってことで、頭が一杯になっていた。

チラチラと隣を見る。
彼女はコーラを半分ぐらい飲んでいた。
そして、チラッと僕を見てきた。
薄暗いカップルシートで、僕たちは見つめ合った。

「なんかさ」
僕は急に照れくさくなって、女の子の耳元に口を近づけた。

「あれ見てたら、食べたくなっちゃって」
僕はスクリーンの中のポップコーンのことを言った。

彼女も、少し笑って、少し頷いた。

「買ってくればよかったね」
彼女が欲しい、って言ったら、途中でそっと抜け出してもいい。
でも彼女は、小さく首を横に振った。

「ポップコーンは好きじゃないの」

ということらしい。
僕は、すかさず、また彼女の耳元にささやいていた。

「じゃあ、キミの好きなもの、食べにいこうか。あとで」

彼女は嬉しそうに頷いた。

「おなかすいちゃった」

彼女が可愛く笑った。

「僕も、だよ」
僕も今すぐ、そんな彼女が食べたくなった。

彼女にキスしようと、彼女の唇に口を近づける。
そしたら彼女も唇を開いた。

大きく開いた。

その口に僕の頭は挟まれた。





僕はそのまま、そこで彼女にバリバリと食われた。

スクリーンの中でポップコーン食ってた男が目を背けた。

それが僕が見たさいご

 

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=243976

 

 

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またラストがギリギリすぎて、「さいご」の漢字変換がまにあってないー(^_^)

 

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おなじテーマでおもしろかったものー。

私のお題の「激しい食事」は、ほかの作品が出てこなかったんだよね。

 

それで、必須要素の「映画」。

 

「日が暮れるのを待つだけな日々のこと」 - 即興小説トレーニング

 これは必須要素の「映画」は出てきてないみたいなんだけど。

 

「た……けて」 - 即興小説トレーニング

 シチュ的に私のと似てるかも。

でも、こっちのほーがホラーっぽいよね。