未解決の文字

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「残酷な神が支配する」を1巻だけ読んで

《※この記事は、未読の人にはネタバレっぽくなっちゃう内容も含みます。》

 

 ツイッター萩尾望都さんのおススメ作品をいろんな方から教えていただいて。

その話聞いてても、萩尾さんってすごい人気があるマンガ家なんだなー、って思った。

 

それでこの前、『トーマの心臓』を読んだけど、これは時間を少し置いてもう一回読み直してから、改めていろいろ考えたい作品だった。

一回読んだだけじゃ私にはわからないこととかあったから。

 

その後、この『残酷な神が支配する』の文庫版の1巻だけ見つけて、これを買ってみた。

 

残酷な神が支配する (1) (小学館文庫)

残酷な神が支配する (1) (小学館文庫)

 

 

最初、このタイトルから、佐野元春さんの『誰かが君のドアを叩いている』を連想しちゃったんだよねー。

 

歌詞:誰かが君のドアを叩いている//佐野元春

街角から街角に神がいる」っていう歌詞。

 

「神」っていう言葉に、なんとなく救いのイメージを抱いて。

だから、「残酷な神」って、なんの比喩なんだろー、って興味湧いて。

 

このタイトルの由来は、文庫版の1巻の中に出てくる。

アメリカで暮らしてた主人公のジェルミは、お母さんがイギリス人のお金持ちと再婚したんでイギリスで暮らすことになって、そこで全寮制の学校に入るの。

 

その寮でおなじ部屋になった男子たちが、自分たちの苗字はいろんな詩人のとおなじ、っていう自己紹介してきて。

それでジェルミの苗字聞いて、「バトラー」って答えたら、「ウィリアム・バトラー・イェイツ」っていうアイルランドの詩人の話を思い出した男子がいて。

残酷な神が支配する」は、その詩人の言葉だっていう話をジェルミに聞かせるの。

 

残酷な神が支配する」はアイルランドの詩人・劇作家 W.E.イェイツが、その自伝の中で言ったことばです。で、アルヴァレズという詩人・批評家が、著作『自殺の研究』(新潮選書・早乙女忠訳)の中で、この一文を引用し、"残酷な神"とは、自己破壊とか、自殺とか、死とか、そういうものだと述べています。

//【図書の家】『残酷』支援計画【03】より

 

「自己破壊の神が支配する」

こんなふーにとらえたら、1巻の内容だけで、このマンガのタイトルの重さをすごい感じた。

 

あらすじとかはこんな感じ。

 

残酷な神が支配する - Wikipedia

 

ここで、ジェルミの殺人のことが書かれてるけど、 1巻はそのシーンまでは描かれてなくて、でも冒頭はお母さんのお葬式のシーン。

 

それから、アメリカでの母子家庭時代にさかのぼって、ジェルミのお母さんがグレッグと出会って、再婚することになって、イギリスにジェルミと渡って、ものすごいお屋敷で再婚生活をはじめる、っていうストーリーの流れ。

 

1巻で、すでにジェルミはお母さんの再婚相手のグレッグに性的虐待を受ける苦痛が描かれていて、グレッグの本性もだいたいわかる感じになっている。

 

『福島ドライブ』で惹かれたよーに、この作品もものすごい絵がきれい。

萩尾さんの絵はすごい好みで、だからこんな絵のマンガをもっと読みたい、って思うのに、この作品は1巻読み終えたところで、2巻を買うかすっごい迷った。

 

この続きの話を読みたいのか、自分でもわかんない、っていう気持ちになった。

私はべつにきれいな話が好きってわけじゃないし、グロテスクなものとか、人間の醜さとか、サイコパス的な話はぜんぜん苦手じゃない。

ハンニバルとか好きだし。

 

でも、なにがひっかかって、このマンガの続きを読むのをこんなに迷わせてるんだろー。

 

これ読んでて、前に読んだことある『隣の家の少女』っていう小説を思い出した。

 

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)

 

 

図書館でサスペンスだと思って借りてきて読んだ本。

※これもネタバレ含みます

 

そしたらこれは、実話を元にした、っていう、ある女の子が虐待される話だった。

「虐待」の内容は性的な暴行も含めた残虐行為のフルコースっていうぐらい陰惨で、読んでてすごい吐き気がしてくるだけだった。

それでも最後まで読んだのは、救いがどこかにあるのかと思ったから。

だけど、そんなもんなかったんだよね。

読んだ後、読まなければよかった、ってすごい後悔するよーな本だった。

 

苦痛とはなにか、知ってるつもりになっていないだろうか?

 

こんな書き出しから始まるこの小説は、虐待された悲劇を描いてる、っていうより。

虐待を「ただ見てるだけだった」人の罪を突いてる。

 

虐待してたおばさんと虐待された女の子、の話じゃなくて。

その虐待を「見てるだけ」だった男の子の話。

 

なにもしないで見てるだけ。

これがどんなに罪深くて、どんなに吐き気することか、って考えさせられて。

でも「見てるだけ」の立場をどーすることもできなかった人に、ものすごいやるせなさみたいなのを感じて。

その「やるせなさ」には「見てるだけだった立場に理解」も混じってるかもしれないって気づいた読者にとって、ものすっごい読後感の悪さを残すストーリーに仕上がってる。

 

『残酷~』も、冒頭は、

ある 悲しみの話を しようと思う

ってはじまり方してるんだよね。

 

これは主人公のジェルミじゃなくて、再婚相手の男の長男のイアンの言葉。

 

なんかこの言葉に、傍観者的なものを感じて、それで『隣の家の少女』のイメージが重なった。

 

文庫版1巻の中で、すでに「傍観者」的な存在がいる。

ジェルミは自分がグレッグにされてることを唯一、自分のカノジョのビビに打ち明けてる。

でもビビは、ジェルミが「男と2度もホテルにいった」っていう事実に衝撃受けちゃって、ジェルミが無理につれていかれた、って説明しよーとしても、

無理に?二度も?

って、ジェルミが「されたこと」がピンとこない。

それで、男と2度もホテルに行っちゃえるジェルミが理解できなくなって、

きけばきくほどジェルミが……知らない人になっていく……

って傷ついちゃう。

 

ジェルミは、ビビを傷つけたことに自分を責めて。

ほんとうはビビに一緒に泣いて慰めてほしかったのに、そんな本音をにどとカノジョにぶつけたくない、って、自分を責めることしかできなくなって。

 

あの時のビビのショックはわかるけどね。

でもビビは、ジェルミが打ち明けた時から「傍観者」側になっちゃった。

 

1巻ではまだだけど、あらすじ読むと、ジェルミのお母さんのサンドラも知ることになるんだね。

そして、サンドラもジェルミを助けないで、傍観者側にまわる。

 

まだ1巻しか読んでないし、サンドラが知るシーンはまだ出てこないけど。

でもこの物語は、「ジェルミがグレッグにされたことのひどさ」より、「ジェルミが助けてもらえなかったっていうひどさ」が描かれてるのかなー、って思った。

 

それこそ、『隣の家の少女』みたいに。

 

グレッグはサイコパス

サンドラは男性依存の強いメンヘラ。

 

そんなふたりが「親」となったジェルミは、最初はすごい健全な男子、って感じだったのが、どんどん精神がおかしくなってって。

この先のジェルミを見るのが、私には重たすぎる、って気持ちになった。

 

このマンガ読んでて、もーひとつ、ある小説が思い浮かんだ。

 

ドールハウスの夢 (扶桑社ミステリー)

ドールハウスの夢 (扶桑社ミステリー)

 

これも学校さぼって図書館通いしてた時に読んだシリーズものの話。

この『ドールハウスの夢』は、サンドラのような美人じゃないけど、主人公がものすごいお金持ちのイケメンに結婚を申し込まれて、幸せな結婚を夢見て彼の豪邸で暮らしはじめるの。

でもこの夫は異常な性格をしてて、ぜんぜん美人じゃない妻とは跡継ぎ息子をつくる時以外はぜったいセックスしない。

それで、夫の父親が再婚した若くてすっごい美人な義母をムリヤリ、レイプし続けて、それを知って止めにはいった父親を夫が死なせて。

そしてレイプした義母は夫の子を妊娠して。

でもそーいうことを、主人公は「ただ見てるだけ」。

異常な夫のせいで家族が不幸せになっていくのを、「ただ見てるだけ」。

「ただ見てるだけ」っていうのは、夫の罪に加担してることになる。

 

虐待されてる人を、「虐待を知りながら」「助けない」っていうのは、その虐待に加わってるってことに等しいよね。

 

グレッグより、グレッグにジェルミがされてることを知りながら助けなかったサンドラのほーが、ジェルミには絶望を与えるよね。

そんなふーに、この先のストーリー展開を想像する。

 

簡単に泣いてみせたり、ウソに見えないウソの笑顔を浮かべたり、なにも知らない人にはすごい優しい紳士に見られたり、だけど自分のゆがんだ欲望を果たすためにはなんの罪悪感もないグレッグ。

 

ものすごく息子を愛して、息子が命で、息子にとって最愛の母親でいるのに、男のことになると息子を残して自殺もできて、自殺する自分の姿も息子に見せれて、母性より女としての自己愛のほーが強いサンドラ。

 

グレッグは憎めてもサンドラを憎めなければ、ジェルミには救いがないよねー、って思った。

 

自分を守ってくれなかった母親を憎めずに母親への愛が消えなかったら、ジェルミはどんどん自分を責めていくだけだよね。

それが「自己破壊」なのかな。

その「自己破壊」から逃れないから、「残酷な神が支配する」世界にジェルミは縛られるのかな。

 

サンドラも、「自己破壊」の神に支配されちゃった人だよね。

精神的に自立できなくて、男に依存して、息子の本心から目をそらす。

アメリカに戻りたがってる息子に、口先だけで、それなら自分も一緒に帰ると言って、

口先だけだろ?グレッグと別れて帰れるんだね?サンドラ?

って言ってきた息子に、

いじめないで、ジェルミ……

って泣くだけのサンドラ。

なんで息子がこんなに帰りたがってるか、それを気にすることより、自分の幸せな結婚生活が壊されることをおそれてる。

自分が幸せでなくなることにすごいおびえてる。

 

そんな自己破壊の神に支配されたまま、サンドラは死んじゃうみたいだよね。

 

残酷な神の支配から逃れられる話だったらいーんだけど。

それを確かめる気持ちがまだ決まらないうちは、2巻を買わないんだろーなー。

 

この話、好きとか嫌いとかいうんじゃなくて。

先を読むのがこわいなー。

って思うのは、文庫版で10巻ある話のたった1巻目のうちに、萩尾さんが描くこの世界に読者をしっかりひきずりこんだ、ってことだよね。

 

おもしろくないから2巻から読まない、っていうマンガもいろいろあるけど。

私はやっぱり、萩尾望都さんにはすごい惹かれちゃってるんだと思う。