《即興小説》からっぽの故郷
お題:子供の故郷
必須要素:脂肪吸引
制限時間:15分
※匿名で書いたのでブログに転載。
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「予定日はいつですか?」
にこやかに人から話しかけられる。
これで何度目だろう。
電車に乗れば、席を譲られる。
最近はみんな冷たいっていうけど、そんなのウソ。
私が妊婦だとわかると、人から笑顔を向けられ、席も譲られ、時には荷物も持ってくれる。
「あら、年子なのね。タイヘンだけど頑張ってね」
まだよちよち歩きもできない息子をベビーカーに乗せて買い物に行くと、どこかのおばあさんが声をかけてきた。
最近、引っ越してきたこの街は、だれもかれもが親切だった。
「あなた、見ない顔ね。よそから越していらしたの?」
バスを待っている時、話しかけてきたその中年の主婦は、私の息子にもにこっと笑った。
乗り込んだバスの中で、停留所のアナウンスが響く。
「次は~、北町3丁目~。脂肪吸引クリニック入り口~」
そんなクリニックがあるのね、と、私は譲られた席で窓の外に目をやった。
無意識に電話番号を覚える。
まだ言葉もわからない息子に、
「ボクはどこから来たんでちゅか」
と、聞いてくる。
さっきの主婦の声がまたした。
私は膨らんだおなかをさすった。
息子を産んでから、戻らない体型。
ぜんぜんへこまないおなか。
息子の故郷は、ここですよ。
息子の故郷は、今もそのまま変わらないまるいおなか。
私はさっき覚えた電話番号を忘れないうちに、バッグから取り出した携帯に登録した。
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▼luvlifeの即興小説:
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この絵。シートの一部、塗り忘れてるよねー)^_^(