《即興小説》無人島の一冊
お題:つらい怒り
必須要素:漫画
制限時間:30分
※匿名で書いたのでブログに転載。
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怒ることなんてできなかった。
怒る相手が、そこにはいなかったからだ。
手にしていたマンガを閉じた。
最後のページまで読み切った。
「なんてこった。エレンが食べられちまった」
『進撃の巨人』の1巻は、そこで終わる。
主人公が巨人に食べられ、アルミンが泣き、ミカサがヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥ。
ってことは、エレンが主役ではなかったのだろうか。
「オレは騙されていたのかもしれない」
1コマ目に出てくるエレンを、素直に主人公だと信じていた。
信じていたから、こいつに感情移入しながら読み進めていたのだ。
だから、泣いたんじゃんか。
母さんが食べられた時。
オレも、巨人を許さねー、と思った。
そうさ。
誓ったさ。
オレも戦う、と。
オレがエレンになる。
それがどうだ。
最後のページで、こいつは巨人の腹の中だ。
巨人のウンコになっちまう。
オレは今まで、巨人のウンコを応援してきたのだ。
いや、巨人のウンコに感情移入してきたのだ。
オレが、巨人のウンコになっていた。
許さねぇ。
オレの純真、踏みにじって。
最初から主人公には、「主人公」ってテロップを出せ。
しかしこれは1巻目。
1巻というからには、2巻がある。
ってことは、2巻からは本当の主人公が明かされるのだろう。
なんてこった。
--無人島に行く時に持っていきたい一冊はなんですか?
オレはそのアンケートに答えて、無人島にやってきた。
その時、迷いもなく、
『進撃の巨人』
と書いた。
おもしろい、って聞いたからだ。
だから、無人島にいる間、その面白いマンガを読んで、面白く暮らしてやろうじゃないか、と思った。
ところがだ。
無人島にいざついてみて、リュックを開けたら、だ。
リュックの中には、一冊の本しか入ってなかった。
それが『進撃の巨人1』だ。
おい。
今は12巻まで出てるはずだ。
一冊、ってそういう意味じゃねぇ。
一作品、っていう意味だ。
そのつもりでオレは書いた。
アンケートに、進撃の巨人を読みたい気持ちをこめて『進撃の巨人』と書いた。
しかし、一冊、は、一冊。
本当に一冊っきりしか入ってねぇ。
浜辺から海を見る。
水平線には、ただ上に青空と、下に海面しか見えない。
だれも人の気配がない世界。
だから無人島だ。
いや、オレがいるのだから、今は無人島とは言わない。
オレの島だ。
オレの世界だ。
オレが世界だ。
それなのに、オレは無力だった。
エレンが食われた。
それだけで、オレは自分の生きる道を見失った。
絶望が、ひたひたと満ちる潮のように、オレに押し寄せてきた。
オレは絶望に溺れる。
こんな絶望を味わいたくないから、絶望の世界から逃避してきたんじゃないのか。
無人島でリフレッシュ、というツアー企画に飛びついて。
好きな本だけ読むストレスのない暮らし。
それをやりたくて、オレはアンケートに素直にこたえて、ここに来た。
だが、いったい何が間違っていたのか。
オレがリクエストした一冊は、連載マンガの1巻だけだった。
これから半年、この1巻を繰り返し読むしかない。
最後はいつもエレンが食われて終わる、この巻を。
本当の主人公はだれだ。
オレの感情が、巨人のウンコになっちまった。
嗚呼、主人公が知りたい。
真の主人公が。
2巻が。
2巻が読みたい。
嗚呼、2巻!!
絶望。
ストレス。
絶望。
ストレス。
絶望。
ストレス。
絶望。
ストレス。
絶望。
オレはそこで疲労死した。
島の奥には、おなじように死んだ何体もの人骨と、いろんな連載マンガの1巻だけが転がっていた。
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▼luvlifeの即興小説:
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※ブログ転載時に気づいた誤字だけ直しちゃってます。
文章とかはおかしくても、そのままにしてます。