《即興小説》ガラパゴスの作家
お題:純粋な小説修行
必須要素:ガラパゴス諸島
制限時間:30分
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完璧な小説などといったものは存在しない。完璧な作家が存在しないようにね。
こんな書き出しの小説を執筆をはじめてから、僕は聞こえるはずのない風の音ばかり聞いていた。
何日経ったのかわからない。
僕は小説を書かなければならなかった。
僕は作家だった。
だった、というのは、つまりは過去形なんだけど。
僕はその昔、文壇デビューをしている。
きっと誰も覚えちゃいないんだろうけどね。
でも、君の本棚にも僕の本があるはずだ。
え?
本棚がないって?
本も読まない人はろくな大人になれないんだぜ。
今からでいい。
百円玉と五円玉を持って、ブックオフに行くんだ。
3月31日までなら、たった二枚のコインで僕の小説が買える。
4月1日になるとあと三枚もコインが増えるからね。
今のうちだ。
ブックオフに行ったら「む」の棚を探そう。
だから、105円の棚だよ。
間違っても300円とかの文庫が並ぶセレブ棚には僕はいない。
僕はね、とても庶民的なんだ。
そう、庶民派。
僕の小説は、すこしも難しいことは書いていない。
だから君にだって読みやすいはずさ。
別に君の知性を疑っているわけじゃないんだぜ。
僕はいつも、君のそばにいる。
君の世界に、僕は言葉を残す。
いつか君について語ろうかな。
君がどんなふうに僕の小説に嵌ったか、僕はそれに興味がある。
だから早く、ブックオフに行くんだ。
着いた?
じゃあ、105円って紙がぶらさがってる棚の通路に行って。
「む」だ。
「む」のところに僕はいる。
ほら、そこが「む」だよ。
そこから僕を探して。
僕がどれだか、君、あててごらんよ。
君にわかるかな。
え?
わかんない?
だから僕はそこにいるって。
そう、む、む、む、む、むら。
村、だ。
よし、もう少し。
いや違う。
それは村上春樹だろう。
よしてくれよ、僕は春樹じゃない。
時々僕のこと、村上春樹だと思い込む人がいてね。
どうかしてる。
え?
そっちは龍だぜ。
まぁ、僕も春樹よりは龍のほうが好きなんだが。
君も?
え?
龍を買うって?
だって君、105円しか持ってないだろ?
それ買っちゃったらさ。
僕の本が買えなくなる。
それはまずい。
君にとって損失だ。
だから、コインロッカーの赤ん坊のことはあとで考えよう。
僕だって、いつか君にコインロッカーの中の話をしてあげるから。
実はね、僕はコインロッカーの中を知ってるんだ。
そこは狭くてね。
つるつるの床と壁と天井はおなじ材質でできていてさ。
清潔なとこは気にいったさ。
だけど、そこ、窓がなくて。
ドアを閉めると真っ暗なんだ。
なんで知ってるかって?
それはね、僕はその真っ暗なところにいるから、だ。
そうなんだ。
今、僕がいるところが、そこなんだよ。
違う。
龍の赤ん坊がいるロッカーじゃない。
僕は僕しかいない。
ほかのやつらはいない。
僕しかいない世界さ。
そこで僕は生きている。
ここで僕は小説を書いている。
君も書いていたのかい。
小説はいいよね。
あれは書くものだ。
読むものじゃない。
なんだ、君もそう思うのか。
じゃあ、僕の小説なんか読みたくないってわけか。
それが本音なんだろ。
だったら期待させるなよ。
僕の読者になる人だと思ったから、僕はこんなに話しかけてたんだ。
ちぇっ。がっかりだ。
どうせ僕は孤高さ。
ここに僕しかいない。
なんだって?
君もそうだったのか。
なるほど、それで君も小説を書いたんだな。
小説はいいよ。
自分の世界をつくれる。
そこではさ。
僕は人気者にもなれるし、世界を暗黒にかえる悪魔にだってなれる。
僕はなんでもできる。
君もそう思ってたんだろうね。
いや、違うのか。
ごめん。
君は小説を書くのをやめちゃったのか。
なんでだい?
え?
出版社に持ち込みしたら、一行目を読んだだけで突っ返されたって?
それで絶望した?
どこかで聞いた話だな。
ええ、なんだって。
君はそれで駅のホームから飛び込んじまったのか。
まさか。
それで?
まさか君、君はもう死んでいるのか。
なんてこった。
僕は君の魂と話しているのか。
いや、そんな感じはしないな。
なんか君がとても近しい存在に感じる。
すぐそばにいるような。
そう、まるで僕みたいな。
君の書いた小説が読んでみたいな。
え?
飛び込んだ駅のコインロッカーに原稿をいれたって?
その突き返された一行目って。
完璧な小説などといったものは存在しない。完璧な作家が存在しないようにね。
「これは村上春樹のパクリですね」
編集者のさめた声がした。
その日から僕はコインロッカーにいる。
そこで進化しない僕は、いつまでも小説を書き続けている。
ガラパゴス諸島の作家のように。
これが僕の進化だ。
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=239713
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また時間切れのタイミングで最後の「。」打てたぐらいのギリギリだったから、ぜんぜん見直せなくて日付を間違えたー。
誤:4月31日
正:3月31日
ブログに転載した時、そこだけ直してます。
これもぜんぜん物語が思いつかなくて、「小説」ってとこで目の前にあった春樹おじさんの文庫に反応して、それで一行目書きだして、そこから話思いつくまで適当に書き続けてって、けっきょくだらだら書き続けてるだけでオチも思いつかないままラストに到達。
すごい意味不明な話になってるよねー(^_^)
でも、こんなテキトーな話が出来上がっちゃうのも、この遊びの面白いとこだからねー、って開き直り開き直り。
この作家のPNはね。
いちおう「村上もど樹」って設定でした(^_^)